さて、以前のコラムでも、たとえば身近な夏風邪やヘルパンギーナなどの感染症にも漢方薬が有効であろうというお話をしました(コラム17,コラム18)。小児科の外来をやっていると、数日前に咳や鼻水、発熱で受診後、解熱はしたがまだ鼻や咳がでて、特に夜間の咳がひどくなっています、などという方が再診されます。初回の処方がたとえば西洋薬の咳止め、痰切り、鼻水止め、みたいな組み合わせ(ベラチンやアスベリン、ムコダイン、ペリアクチン)だったとして、抗生剤が入っているときも入っていないときもあるでしょう。次に何を出すかですが、小児科領域で使う薬はあまりバラエティに富んでいるとは言えません。場合によって異なりますが、たいていは同じような内容の薬をもう数日分追加処方して様子を見ましょう、となるでしょう。それでもよいのですが、子どもからすれば頑張って薬を飲んでいるのにまた同じものを出されるのか、と口には出さずとも内心思っているかも知れません(笑)。このようなとき、私はよく麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)や小青竜湯(ショウセイリュウトウ)といった、何度もこのコラムで登場している漢方薬を追加しています。毎回その効果がどうだったかを確認することはできないのですが、別の症状でまた来院されたときにカルテを確認したり、お母さんにこの前の漢方飲めましたか?と聞いたりしています。飲めて良くなった子もいれば、全然飲めませんでした、といわれることもしばしば。二度と漢方なんかださないでね、と言外に匂わすお母さんもいます(笑)。でも、薬なんてなんでも嫌でしょう。大人だって昔は嫌々飲んでいたはずです。私の心の中では、親の覚悟と一生懸命さが伝われば子どもは飲んでくれるのになあ、もったいないなあ、という思いが渦巻きますが、笑って別の処方を出しています。
本当なら、漢方1種類で西洋薬数種類分の作用をまかなえます。漢方薬は複数の生薬の組み合わせであると前回コラム25でお話ししました。小青竜湯は、その中に麻黄、細辛があり、これらが鼻の通りをよくし(ペリアクチンの作用)、さらに桂枝が加わって発汗解熱やむくみをとる作用を持ちます(解熱剤の作用)。また、麻黄、半夏や五味子が咳を止め、痰を切ります(ベラチン、アスベリン、ムコダイン)。芍薬や甘草により鎮痛作用も含みます(解熱剤の鎮痛作用)。要するに、1種類で多方面に働く総合感冒薬の役割を果たすといってよいのです。これさえ飲めれば、また病院に行かなくて済むよ、早く保育園や学校に行ってお友達と遊べるよ、と子どもを諭して、飲む必要性を理解させれば、いいのですが、案外お母さん自身の先入観があってかどうか、子どもの服用失敗に対する諦めは早いような気がします。
ま、とは言っても飲めなきゃ薬もただの粉、なんとか飲んでもらえるように工夫します。漢方薬を出すときに、単シロップという薬効のない、いわば砂糖水を処方できます。これに混ぜて飲める子もいます。また、ココアパウダーやスティックシュガーなどと混合でお湯に溶かす方法もあります。ハチミツ(1歳未満の乳児はダメ)であったり、ヨーグルトであったり、別に子どもが好んで飲めれば何に混ぜても原則OKです。愛知県の小児漢方の高名な先生が学会でご報告されたある症例では、エキス剤でなく煎じ薬ですが、その抽出液をケーキの材料に混ぜたり煮物に混ぜたりと、お母さんが一生懸命工夫されて、長期服用することで、非常に難治な疾患の症状が軽快したということでした。ある程度の加熱では、薬効が変化しないであろうと推測されていますので、こういう方法もあるんですね。
これは、何も子どもに限りません。大人でも飲めない人がいます。上に書いたような方法で、子どもみたいに甘くして飲んでもらってもいいですし、コーヒーのように少し苦みをもつ飲み物に合わせることで、かえって苦みを目立たせない方法もあります。それでも無理という方には、炭酸飲料での服用をお勧めしています。実は私自身、銀翹散(ギンギョウサン)という薬の味が苦手で、どうやってあの嫌な後味を少なくするか考えた結果、これにたどり着きました。少量のソーダなどを口に含んでおいて、そこへエキスを流し込めば、顆粒に気泡が付着し、味を感じないまま飲むことができるのです。ただし、炭酸飲料をたくさん口に含めばあふれ出すこともありますからご注意を。
服用のタイミングは原則、食前または食間ですが、食後でもかまいません。漢方の種類によっては、あえて食後をお勧めするものもあります。この辺は、臨機応変に。
文責 三重大学附属病院漢方外来担当医・小児科専門医・医学博士 高村光幸
《参考資料》
日本東洋医学会東海支部学術総会(平成23年11月3日)
《写真提供》
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