・・・ 肌荒れに効く漢方はありますか? ・・・ |
とのご質問があったようです。
このコラムはアトピー性皮膚炎のことから連載が始まっていますが、「肌荒れ」と一口にいっても、そのようなアトピー体質のようなひどいものから、冬場の乾燥に伴う一時的なものまで、幅広い症状を扱うテーマですね。今回はいまいちど、アトピー性皮膚炎を含んだ、皮膚の症状について考えてみましょう。
私が医学生のころ、皮膚科実習のときの先生はしきりに、皮膚科は皮膚だけをみているのではない、とおっしゃっていました。「皮膚は内臓の鏡である」とまで言われていて、たとえば内臓のガンのときに、皮膚に特徴的な兆候がみられることがわかっています。これは西洋医学でデルマドロームと呼ばれるものです。一方、東洋医学ではもともと、皮膚と内臓が関連しているというのは当たり前のような話になります。今までのコラムでもでてきた、「気血水(津液)」や「五臓六腑」のバランスの乱れが、皮膚症状をももたらすからです。
皮膚のことを中医学では、外邪(外部からやってくる身体のバランスを乱すもの)の侵襲を防ぐ役割をもつものと解釈しています。皮膚では気のエネルギー(衛気・えき)がバリアのような役割をしたり、津液や血が栄養を運んできて気をサポートし、そのみずみずしさや弾力を保ったりしています。その気のパワー不足や、栄養を運ぶ循環の不良が起これば、皮膚はその機能を果たせなくなってしまい、病気になる(肌が荒れる)、ということです。気のパワーバリアなんていうと、嘘くさくて、なんだかアニメのような話に聞こえてしまうかもしれませんが、西洋医学的にも皮膚のバリア機能という言葉が、アトピーに関連して盛んに使われています。皮膚の一番外側にある表皮には、数層から数十層に規則正しく重なる角質細胞の層があります。この角質細胞を徐々に取り除いていくと、まず皮膚からの水分喪失量が増加し、痛みなど知覚が鋭敏になり、ウイルスや細菌にかかりやすくなり、過敏な免疫反応(アレルギー的なもの)を生じやすくなるということが証明されていて、このような保護機能をバリア機能と呼んでいます。アトピー性皮膚炎はこのバリア機能に問題が起こるとされています。この顕微鏡的な視点を、顕微鏡のなかった時代に、目に見えない気のエネルギー(血・津液も含む)として解釈しただけのことで、現代医学と漢方医学とではなんら矛盾はありません。むしろそのダイナミックな視点に驚くばかりです。
さて、現代医学ではそのバリア機能を保持するために、外側から保湿剤などを塗布することが肌荒れの治療の重要なポイントですが、気血津液や五臓六腑は身体の内側の話です。そっちのバランスを改善せずに、なぜその根本治療ができるでしょうか。気を作り出すのに必要なのは脾胃(消化機能)の健全な状態です。肌荒れの場合、食生活が乱れていたり、便秘だったりすることが原因であることは一般的なCMなどでも謳われています。これはまさに脾胃の状態がよくないことにつながります。また、精神的ストレスは気の司令塔である肝の働きを悪くし、局所の気の巡りを悪化させるほかに、脾胃への悪い影響をもたらします。ストレス、寝不足、不規則な生活が肌荒れの原因であるのもこれにつながります。
おっと、長くなりそうなので、続きは次回コラムで。
文責 三重大学附属病院漢方外来担当医・小児科専門医・医学博士 高村光幸
《参考資料》
皮膚疾患の漢方治療(二宮文乃著・源草社)
今日の診療プレミアムVol.20(医学書院)
中医基礎理論(滝沢健司著・東洋学術出版社)
《写真提供》
株式会社ツムラさんのご厚意による