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Vol.51 傷寒論について(その2・太陽病パート1)

最終更新日:2015年1月23日

 これからのコラムでは6つのステージ(前回コラム参照)をそれぞれみてみることにします。キーフレーズで考えましょう。

 傷寒論の最初にどーんとでてくるのが、太陽病の最も重要なフレーズ、「太陽の病たる、脈浮、頭項強痛、而して悪寒す」です。現代風に訳すと、橈骨動脈の拍動(手首の脈です)が少し触れただけで感知できるような状態の人で、自覚症状として頭痛、項(うなじや首筋、さらには背部のこと)のこわばり、悪寒(服を着込んだり布団にくるまっていたりしても、ぞくぞくと寒気を感じる)を訴えている場合に、太陽病と考える、となります。なにやら首筋がぞくぞくと寒気がして、頭も痛む、といった経験は、誰もが感じるかぜのひきはじめ、のようですね。まさにその時期前後のことをいっています。

 橈骨動脈の拍動が少し触れただけで感知できるほどに「浮いて」いる、とはどんな状態でしょうか。一説には、木片を水に浮かべて、それを指先で押し下げようとすると、逆に指を突き上げられるような、浮かび上がる感じがする、という感触とされますが、どうでしょう、イメージできますか。これはからだの表面になにか病状があらわれていることを示す徴候と考えられています。コラム46の小柴胡湯解説のときなどにも触れましたが、漢方ではからだの表面を「表(ひょう)」といって、内臓などの「裏(り)」や、その中間の「半表半裏(はんぴょうはんり)」とわけて考えています。外界からの侵襲や外界の変化に初期対応する、いわば防衛、免疫の最前線のところ、というわけです。その「表」でいま身体が、反応してますよ、というサインです。そしてそれは、主に寒邪(寒さのように身体をひやす性質のなにか悪いもの)が、襲ってきての反応なので、からだはぶるぶると寒さを感じ、頭から後頸部、背部にかけての太陽経と命名されている部位が、その寒さで緊張状態となって、必要な気血などの要素が巡りづらくなって痛む、こわばる、状態です。体表である「表」に寒さのヴェールがくまなくまとわりつき、首筋が縮こまって、ぶるぶると震えている状態をイメージできたでしょうか。

 この太陽病にはまだそのサブタイプみたいなものについての記載があります。先の太陽病の基本事項をベースに考えつつ、「発熱汗出で、悪風、脈緩のものは、名付けて中風となす」というのと、「或いはすでに発熱し、或いは未だ発熱せず、必ず悪寒し、体痛、嘔逆、脈陰陽ともに緊のものは、名付けて傷寒という」、というものです。

 「発熱汗出で、・・・」での中風(ちゅうふう)、とは、ここではいわゆる脳卒中のようなものではなく、太陽病のなかでもやや軽症で良性の病態をこう名付けた、というものです。発熱があって、身体はうっすら汗ばんでいます。そして服を着込んだり布団にくるまっていてもぞくぞくと強い寒気を感じる悪寒とは違い、あたたかくしていれば問題なく、寒い風にあたったりすると感じるだけの、悪風(おふう)とよばれる程度の軽い寒気を自覚します。そして脈は「浮いて」いるのだけれど、ゆったり緩徐で緩慢な状態を診察で確認できます。

 これに対し、「或いはすでに発熱し、・・・」のほうでは、悪風ではなく強い悪寒であり、脈も「浮いて」いる上に緊張の強い、引き締まった状態で、頭痛、後頸部痛だけでなく、肩や腰、四肢まで痛む「体痛」がでています。「嘔逆」という、腹のほうからむかむかがあがってくる症状まで伴い、いかにも中風より重症な感じです。そしてこれは傷寒(しょうかん)と定義します、ということです。題名である『傷寒論』の傷寒です。省略されてますが、中風は汗ばんでいるのに対し、傷寒では汗は全くでていません。寒さのヴェールで身体全体の皮膚が引き締まって縮こまっているのです。中風は純粋に「表」だけの症状であるのに対し、傷寒では胃腸症状もあることから、わずかに「裏(り)」のほうに病勢がおよびつつあることを示しています。「脈陰陽ともに緊」というのは、ここでは陰陽は表裏の意味で用いられているようです。

 むずかしく書きましたが、今回のポイントは、いわゆるかぜの初期症状のような病態をおもに太陽病と呼び、そのなかでも軽症は中風、重症は傷寒、とわけて考えたということです。分けた理由は、治す薬が違うからです。続きは次回に。
 

 《参考資料》 

臨床応用傷寒論解説(大塚敬節・創元社)
 

【文責】 三重大学附属病院漢方外来担当医・小児科専門医・医学博士 高村光幸
 

お問合せ先

福井市 福祉部 子育て支援課
電話番号:0776-20-5270/FAX番号:0776-20-5490
最終更新日:2015年1月23日

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