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Vol.3 アトピー性皮膚炎と漢方(その3)

最終更新日:2010年8月25日

「柴胡(サイコ)」

 前回は体に悪さをする邪気と、本来ヒトがもつパワー正気のバランスをみて、処方を決めることがあるというお話をしました。このような目に見えないイメージで病気を考えることは、エビデンスが治療の根拠(エビデンスとは実験や統計などで確からしいと思われる証拠)である西洋医学からみると、「なんだそれ、眉唾じゃないの」、と思われることがあります。むしろ一般の方のほうがこのような目に見えない話は受け入れやすく、エビデンスエビデンスと呪文のように唱えながら診療する専門家である西洋医師ほど、拒否反応を示すことも多いのは事実です。しかし、漢方医学は長い歴史をかけて成立した純然たる学問であり、その概念に乗っ取って診断、処方がなされるので、これはこれで非常に意味のあるものです。現にこの21世紀に存在し、それを駆使して病気を治している医師がたくさんいるのですから。

 とはいうものの、処方する医師自身も、なんで効くのかわからないなぁ、と思いながら治療するのも心苦しいので、現代医学的な説明を渇望しています。そして、それは、22世紀もそれ以降も漢方医学が存続するために不可欠と考えられています。そこで、漢方専門の先生方も苦労してエビデンス(効く証拠)を一生懸命研究しています。今回はその一部を紹介します。

 

・柴胡清肝湯〈さいこせいかんとう〉

1.アトピー性皮膚炎(以下、アトピーと略します)のこどもで、原因除去や塗り薬では十分な効果の得られなかった男児15例、女児10例を対象として、柴胡清肝湯を処方し、かゆみに対する効果を評価した結果、1週間の服用で80%のこどもで「ややよくなった」~「大変よくなった」という印象が得られた、という報告があります。

2.別の報告では、軽症から重症の各グループを含む34例のアトピー患者において、柴胡清肝湯をステロイドの塗り薬に併用(一緒に使う)した場合、全体の84%で有効であり、いずれのグループにおいても有効であったといいます。ステロイドではなくワセリン(保湿剤)を併用した場合は、64%で有効だったとのことです。しかしこの場合は、軽症のグループでは著効が多かったが、中等症や重症のグループでは無効あるいは悪化をしめす例が多かったとしています。

 

・十味敗毒湯〈じゅうみはいどくとう〉

3.ある研究では、アトピーの患者のAグループには十味敗毒湯を、Bグループには抗ヒスタミン剤(一般的なアレルギーの薬)を処方し、Aグループでは18例中、著明改善2例、改善7例、軽度改善7例、不変2例で、その改善率は軽度改善以上88.9%だったのに対し、Bグループでは20例中、著明改善5例、改善7例、軽度改善6例、不変2例で、改善率は軽度改善以上90%であり、A、B間で統計的に差はみとめられなかった(統計学という数学の手法を応用したもので、どちらの薬を使っても目立った差はなさそうだ、という結果になったという意味)と報告しています。

 

・補中益気湯〈ほちゅうえっきとう〉

4.アトピー18例に対し、それまでの西洋的治療に補中益気湯を追加で3ヶ月以上投与したところ、かなり有用以上55%、やや有用以上89%であり、全例に副作用も認められなかったという報告があります。

 

 ちょっと学問的すぎて分かりにくいかも知れませんが、すごく簡単にいいますと、「1」は今までよくならなかったものに漢方を処方したら多くの例で効いた、「2」はワセリンよりもステロイドと一緒に使ったらよかった、「3」は現代処方薬と効果に差がなかった、「4」は長期投与で副作用も出ずに症状をいままでよりよくした、という感じです(ただし、これはいつでもこのような結果になると保証するものではありません。それぞれの条件ではこの結果だったよ、と言えるだけです。それに、たとえば柴胡清肝湯より十味敗毒湯のほうが効く、という意味でもないことに注意してください!)。

 厳密にはエビデンスというまでのデータとはいいにくいものばかりですが、こういう積み重ねで、本当に効果があるのか、ただの思い込みか、などを検証していくことは重要です。本当は、「この漢方の」、「どの成分が」、「どこに効いているのか」、までがわからないと、効く証拠にはならないのですが、専門的にいろいろと難しい問題があって、なかなかそのようなデータは出しにくいという側面もあります。(つづく) 

文責 三重大学附属病院漢方外来担当医 高村光幸 

《参考文献》
モノグラフ漢方方剤の薬効・薬理(丁宗鐵・鳥居塚和生、医歯薬出版株式会社)から抜粋して引用、改変

  1. 伊藤ら:小児湿疹(アトピー性皮膚炎)に対するツムラ柴胡清肝湯の効果.日経メディカル,22(3):152~153,1993、小児アトピー性皮膚炎に対する柴胡清肝湯の臨床的検討.漢方医学,11(10):25~28,1987
  2. 堀口ら:アトピー性皮膚炎に対する柴胡清肝湯の治療効果.皮紀要,78:145~150,1983、アトピー性皮膚炎における漢方治療-ツムラ柴胡清肝湯の使用経験.皮膚科における漢方治療の現況,2:104~109,1991、柴胡清肝湯3最近の臨床報告(1).漢方製剤の知識,14:31~34,1997
  3. 小林ら:慢性湿疹、アトピー性皮膚炎に対する十味敗毒湯の治療効果.皮膚科における漢方治療の現況,5:25~34,1994
  4. 小林ら:アトピー性皮膚炎の漢方治療.西日皮膚,51:1003~1013,1989

《写真提供》
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最終更新日:2010年8月25日

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