今回は少し傷寒論を離れて、妊娠に関する話題を取り上げます。少子化が問題になっている昨今ですが、このサイトも少子化対策サイトと銘打っているだけに、いつかは取り上げたい内容でした。
まず、女性はどの程度妊娠するのか、というひとつの目安に関してです。カナダにおいて、宗教上の理由で避妊や中絶をしないグループが存在し、そこで生涯不妊率を調査したところ、全体で3%弱(2.4%)という数字だったようです。しかし年齢が上がるにつれ妊娠できない率は上がり、35歳以上は11%、40歳以上は33%ということでした。卵胞数は37歳以降激減するということです。一般的に高齢出産と呼ばれる35歳以上はやはり要注意であることが示唆されます。
また、女性の体容積(肥満)指数BMI(body mass index)が上がるほど妊娠率は下がり、流産率は上がる可能性があります。実は、中国が明の時代(1368~1644年)に活躍した朱丹渓(しゅたんけい)という有名な中国漢方家の著書にもすでに、「肥満の女性の多くは妊娠しない」と記されています。一方、肥満者にダイエットをさせることで排卵が増えたという報告もあるそうです。
一般的に不妊患者の子宮は血行が悪く、子宮内膜も薄い傾向があるそうです。また、正常子宮では子宮底の血流が豊富で、豊富なほうが着床しやすい傾向があるようです。
さて、漢方では、血行が悪く、血流が乏しい状態を、血虚(けっきょ)または血瘀(けつお)の病態であると考えます。その治療法として、補血(ほけつ、血を補うこと)もしくは活血(かっけつ、血の停滞を改善させること)を考えます。漢方安胎薬として有名な当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は、この補血活血の作用があり、さらにおなかを健やかにしてむくみの改善をもたらし、生理を調整して痛みを和らげるものと考えられています。妊娠中にお腹が痛くなる場合(要するに早産傾向)には、古人はこの薬を服用させていたのです。現代的な研究でも、排卵誘発薬であるクロミフェンを単体で使用する場合と、当帰芍薬散を併用する場合とで比較すると、排卵率に差はないのに妊娠率があがるというデータがあるようです。
《参考資料》
第44回日本東洋医学会東海支部総会の特別講演の内容から引用(中山毅先生)
漢方内科学(水野修一編・メディカルユーコン)
【文責】 三重大学病院漢方専門医・小児科専門医・医学博士 高村光幸