小柴胡湯(ショウサイコトウ)について今回は考えてみます。おなじみ『傷寒論』および『金匱要略』という古典に記載されています。和解少陽剤(わかいしょうようざい)という分類になりますが、これを現代語で説明するには、やや不正確な表現を用いなければならず結構難しいのです。でもあえてそれをやるのがこのコラムの趣旨ですからなんとか考えてみましょう。
まず和解とはなんでしょうか。現代日本語の和解とは、「争いをやめて仲直りすること」、と辞書に書いてあります。一体何が争いをやめて仲直りするのでしょうか。以前のコラムでもお話したように、身体に悪さをする外部からの「邪気」(病原)が感知されると、身体に備わった正気(抵抗力・免疫力)がこれを駆逐するために奮闘し、様々な症状がでるわけですが、これを邪正相争(じゃせいそうそう)と呼んで、争いが起こっていると漢方では表現します。この邪と正の争いを終わらせて仲直りさせる、和解させるわけですが、そのやり方や場所、時期が少陽という区分になるので、和解少陽といいます。葛根湯の回(コラムvol.44)のように、体表、すなわち「表(ひょう)」で発汗して争いが終了して症状が改善すればよいのですが(解表)、そこでよくならずに、半表半裏(はんぴょうはんり)というところにまで邪気が侵入してしまうことがあります。「表」は体表、「裏」は身体深部の臓器・消化管などを一般的に指すのですが、その中間のようなところが半表半裏です。曖昧でわかりにくいですが、現代医学の区分でいけば、気管や上部消化管のあたりを指すとされています(微妙に違うのですけれど)。また、漢方の病気の捉え方のうち、経時的にその進行を6つの段階に捉えて、それぞれに名前をつけて対処法を考えるものがあり、それを六病位(ろくびょうい)といいますが、そのうち半表半裏に邪気が達する時期を少陽と名付けています。邪気の場所が表なら発汗、裏に入れば下痢(または嘔吐)をさせて体外に排泄させてしまえばよいのですが、その中間の半表半裏にいる場合には、発汗や催吐・下剤の薬では上手く治せません。正気を補っても上手くいきません。そこでその中間の和裏解表・和解表裏を行うのが小柴胡湯だというのです。そのため、小柴胡湯は別名三禁湯(サンキントウ)と言って、汗吐下の3つを禁ずる場合にこの薬を用いるという訳です。
さて、和解の和は調和の和、でもあり、前回コラムの半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)の役割である調和と似ています。そして実は半夏瀉心湯と小柴胡湯の構成は似ています。いずれも7つの生薬を含みますが、半夏瀉心湯の黄連を柴胡(サイコ)に、乾姜を生姜に変えたら小柴胡湯になります。名前にもあるとおり柴胡が重要な役割を果たすわけですが、少陽すなわち半表半裏という中途半端な部位に隠れた邪気を、少陽の気の巡りをよくさせて発散させるのがその役目です。柴胡には本来発汗作用もあり、辛涼解表(しんりょうげひょう)といって冷やして発散・発汗させる葛根と同じグループに属しますが、葛根湯の回で述べたように葛根は肌肉に作用しますが、柴胡は半表半裏に作用するというのです。現代医学薬に置き換えると、消炎薬に近いと考えてよいと思われますが、いわゆるステロイド作用を持つと同時にステロイドの副作用を防止する作用をもつ成分も含んでいます。すなわち柴胡自身がバランスをとる名薬というわけで、仲直りさせる仲裁役にはもってこいの生薬であり、これを中心にした小柴胡湯は、非常に応用範囲の広いお薬であると考えられます。
なお、編集部の都合により、今回の連載より毎月ではなく隔月での連載になる予定です。
《参考資料》
医学生のための漢方医学基礎編(安井廣迪著・東洋学術出版社)
中医臨床のための方剤学(神戸中医学研究会編著・東洋学術出版社)
中医臨床のための中薬学(神戸中医学研究会編著・東洋学術出版社)
漢方中医学講座・臨床生薬学編(入江祥史、牧野利明・医歯薬出版株式会社)
臨床応用傷寒論解説(大塚敬節・創元社)
《写真提供》
株式会社ツムラさんのご厚意による
【文責】 三重大学附属病院漢方専門医・小児科専門医・医学博士 高村光幸