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Vol.44 処方解説(葛根湯その2)

最終更新日:2014年1月25日

サンソウニン 葛根湯(カッコントウ)の本来の効能は、風寒邪、とりわけ風邪のほうが強い邪の侵襲に対し、辛温解表するというものです。これを一般的な用語に訳するとすれば、身体を冷やしたり炎症を起こしたりする病気のもとが身体に入ってきたときに、身体を温め、汗をかかせ、体表に起こっている症状を改善させる、というような意味で何度かこのコラムに登場していますが、なかなか難しいですね。現代医学とはかなり目線の違うところなので、まあ少し疑問も残したまま先に進みましょう。辛温解表というような役割を果たす薬はいくつか種類があるわけですが、葛根湯は葛根が入っていることがかなり特徴的です。薬の構成でいくと、この辛温解表の代表は桂枝湯(ケイシトウ)で、これに葛根が加わって少し調整したものが桂枝加葛根湯(ケイシカカッコントウ)、さらに麻黄をくわえたものが葛根湯です。

 桂枝湯は桂枝、すなわちシナモンの力で身体を温め、表面にとりついた病気のもとを発散します。また、その他の生薬によって体内生理物質である「気血」産生の源である脾胃(消化管)の働きを改善させます。身体の表面には営衛(えいえ、営気と衛気、これは難しいので成書に譲ります)という「気血」の一形態である、いわば防御能力を備えていますが、このバランスの乱れを調和し、それらを補充することで病気と戦うわけです。ところが、身体の表面から少しだけ内側の、肌肉(きにく、現代の筋肉にほぼ相当)と呼ばれる部位にまで問題が起こるとき、桂枝湯だけでは力が及びません。そこで葛根を加え、肌肉に津液(しんえき、これも体内生理物質)を循環させ、そのこわばりをほぐすことで対処します。これが桂枝加葛根湯です。葛根湯ではさらに麻黄が入ると言いましたが、麻黄は発汗を強め、体表の病気のもとの発散を強化します。もともとの傷寒論の記載では、桂枝湯桂枝加葛根湯は発汗している病態に使いますが、葛根湯は発汗がない状態に使うため、発汗力が強化されているわけです。しかし、同じ辛温解表に属する麻黄湯(マオウトウ)ほどは強力に発汗させずに、補充の要素も残している特徴があります。このように、症状の微妙な違い(漢方的には大きな違いですが)に着目し、処方を使い分けることで、過不足なく状態を改善させるというところが漢方のユニークな点です。

 ちなみに、前回述べたような感染症以外の病態に葛根湯を用いる場合は、発汗しているかどうか関係ありません。しかし、どちらかといえば全身の筋肉の緊張が弱くない人で、脈もしっかり触れる場合に葛根湯を用いるほうがよいようだと、先人たちは述べています。また、葛根湯は身体の上の方の気の巡りについて改善する力があるので、特に頸から上、顔面のさまざまな症状に対し効果を発揮することができます。かぜに葛根湯、ならぬ、頸から上には葛根湯、と言ってもいいでしょう。葛根湯医者への一歩です。

 さて、今回のように処方構成を分解して考えると、葛根湯の位置づけが少し見えてきますが、さらにある症状に特化するためにはさじ加減を行います。これについてはまた、いずれお話することしましょう。

 《参考資料》 

Japanese journal of Traditional Chinese Medicine臨時増刊号「葛根湯」(安井廣迪・日本TCM研究所、非売品)
医学生のための漢方医学基礎編(安井廣迪著・東洋学術出版社)
中医学の基礎(平馬直樹ら監修・東洋学術出版社)
中医臨床のための方剤学(神戸中医学研究会編著・東洋学術出版社) 

《写真提供》

株式会社ツムラさんのご厚意による
 

【文責】 三重大学附属病院漢方専門医・小児科専門医・医学博士 高村光幸
 

お問合せ先

福井市 福祉部 子育て支援課
電話番号:0776-20-5270/FAX番号:0776-20-5490
最終更新日:2014年1月25日

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