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Vol.41 漢方に含まれる生薬について(その2)

最終更新日:2013年10月25日

ソウジュツ 『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』という薬草学の書物があります。歴史上、中国の後漢の時代(西暦25~220年頃を指す)にその原型が存在したとされるもので、幅広い薬剤知識が既に集積されていたようです。365種類の動植物・鉱物の薬が薬効別に上中下の3ランクに分類されています。上薬は命を養う薬で長期間服用すべきもの、中薬は精を養う薬で気をつけて服用するべきもの、下薬は治病薬で有毒だが病気を治す際に一時的に必要なもの、という分け方ですが、現代的な視点とは異なりますのであくまで参考程度にするものです。

 この下薬のところに記載のある附子(ブシ)、という生薬からお話しましょう。この名前で知らなくても、トリカブト、といえば、多くの人がピンとくるかも知れません。トリカブト中毒で有名ですね。キンポウゲ科トリカブト属植物の塊根を用いた生薬です。毒を薬にするには、その有毒成分を分解しなければなりません。日本薬局方ではオクトリカブトとハナトリカブトの二種を基原として、アコニチンやメサコニチンといった毒性の強いアルカロイドに減毒加工を施したものを附子として流通させます。なぜそのような毒のあるものを加工して薬にするかですが、附子には痛みをとったり、身体を温めたりする力があるからです。気血を巡らせる作用があり、現代風にいえば新陳代謝機能を回復させて身体機能低下状態から改善させるというもので、漢方治療としてはなくてはならない生薬です。3ランクの下薬になっていますが、それは現代のようにきちんと減毒加工のできなかった時代の話、今では例えば関節リウマチの改善などに欠かせないもので、量を加減して長期に用いる場合も当然あります。附子を上手に使えるかは、漢方治療の幅を左右するひとつの重要なファクターではないかと私自身考えています。

 次に、下薬に分類される他の重要な生薬として、大黄(ダイオウ)についてお話します。タデ科のダイオウ属植物を基原とし、その根茎を用います。簡単にいうとこれは下剤です。体内に停滞しているものを大便と一緒に下してしまうことで、体調の改善を図るものです。あまりこういう言い方は好みませんが、現代風にいうとさしずめデトックス、でしょうか。センノシドを含有し、体内でレインアンスロンに代謝され、これが瀉下活性(便をださせる効果)をもつとされます。この効果はビフィズス菌などの腸内細菌の関与にて発現される事がわかっていますが、大黄をいくら用いても便の出ない人や、かえって便秘になる人もいます。このように腸内細菌叢の違いが漢方の効く、効かない、の違いであるのではと考えている研究者もいますが、詳しいことはまだわかりません。私個人としては、腸内細菌といろいろな病気との関連は必ずあると思っていますから、いわゆる体質に関わる問題として、腸内細菌はその一部を担っていると判断しています。

 さて、奈良時代に東大寺の大仏の横に建てられた正倉院は有名ですが、そこには1200年ほど前の大黄が保管されているといいます。しかもそのセンノサイドの含有量を調べてみると、現在の良質な大黄とほとんど変わらないそうです。1200年前の大黄の効果、一度試してみたく有りませんか。きっと長年蓄積された身体の中のいらないものをすっきり排出してくれるもの、と夢想してみたくもなりますね。

 《参考資料》 

医学生のための漢方医学基礎編(安井廣迪・東洋学術出版社)
専門医のための漢方医学テキスト(日本東洋医学会学術教育委員会編集)
漢方中医学講座・臨床生薬学編(入江祥史、牧野利明・医歯薬出版株式会社)
平成薬証論(渡邊武・メディカルユーコン) 

《写真提供》

株式会社ツムラさんのご厚意による
 

文責 三重大学附属病院漢方外来担当医・小児科専門医・医学博士 高村光幸
 

お問合せ先

福井市 福祉部 子育て支援課
電話番号:0776-20-5270/FAX番号:0776-20-5490
最終更新日:2013年10月25日

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