暦の上で秋を迎えた頃からものすごい暑さとなった日本列島ですが、この時期に悪化しやすいのが皮膚疾患の症状です。皮膚疾患の治療薬は、現代医学でもそれほど種類があるわけではありません。しかし、以前よりアトピー性皮膚炎についての漢方治療などでも述べてきたように、現代医学で治しきらない症状を漢方で後押しできたり、ステロイドなどの現代医学の治療薬の使用量を減らせたりするようなこともまれではなく、むしろそうしない手はないと確信するほどです。よって今回は、暑い時期に起こる皮膚疾患の漢方治療を少しまとめてみましょう。
日光皮膚炎、日光曝露から数時間で現れ、24時間目頃をピークにして生じる灼熱感を伴う紅斑ですが、いわゆる日焼けのうち赤くなる症状のことで、これは誰でも経験があるでしょう。紫外線、特にUVBがDNAに吸収され損傷を与えることにより、皮膚に炎症が起きるのが原因で、ひどければ浮腫や水疱ができることもあります。炎症が起きたときにはプロスタグランジンE2などが生じて、血管を拡張させることで赤くなるわけです。数日から1~2週間で落屑(皮が剥がれ落ちること)を生じ、色素沈着を残して消退します。いわゆる日焼け止め(サンスクリーン)で予防することが第一ですが、それでも発症することもあります。ひどい場合、ステロイド剤などで治療するのが一般的ですが、光線過敏症といって、普通日焼けを起こさない程度で繰り返し皮膚症状を起こしてしまう人もみられます。やはりステロイドや、抗アレルギー薬を用います。
さて、これらの治療を漢方で考えると、赤み、熱感、浮腫、水疱といった症状から、熱を取り、余分な水をさばいてやる必要がありそうです。赤みが強いなら熱をとる黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ、前回も少し触れています)、三物黄芩湯(サンモツオウゴントウ)や白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)、浮腫傾向もあれば、熱をとって水をさばく越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)あたりが候補となるでしょう。文献に挙げた皮膚漢方の高名な二宮先生は、麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)の必要性を強調されています。腎陽虚になって冷えを生じるため、腎を温め日焼けに負けない体質にすることが大事だと説明されています。日焼けであるのに冷えに着目するという、漢方ならではの視点だと思います。
夏場に悪化する湿疹、掻痒症については、これまたステロイドや、抗アレルギー薬の他に、漢方で身体に溜まった熱や湿、風を取り除く薬が必要です。黄連解毒湯をベースにした温清飲(ウンセイイン)、柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)、荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)といった清熱の方剤や、消風散(ショウフウサン)、清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)などの、去風・疏風(漢方で言う風は全身を巡り皮膚を冒す病邪で、それを取り除く力のこと)の作用をもつ方剤がよく用いられることになります。
《参考資料》
今日の診療プレミアムVol.20(医学書院)
皮膚疾患の漢方治療(二宮文乃著・源草社)
いかに弁証論治するか(菅沼栄著・東洋学術出版社)
《写真提供》
株式会社ツムラさんのご厚意による
文責 三重大学附属病院漢方外来担当医・小児科専門医・医学博士 高村光幸