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Vol.20 子どものトラブルと漢方(その2、副鼻腔炎・中耳炎)

最終更新日:2012年1月25日

辛夷(シンイ) 前回は小学校低学年にみられるおねしょトラブルについてお話しました。今回はもう少し年長者のトラブルのひとつ、耳鼻科疾患の副鼻腔炎、中耳炎を考えましょう。いずれも慢性のものや、かぜに伴う急性のものがありますが、慢性の副鼻腔炎(蓄膿症)や中耳炎にお困りの小学校低学年以上のお子さんも多くみられると思います。蓄膿症が保険病名となっている漢方薬には、葛根湯加川芎辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)があります。葛根湯加川芎辛夷は、有名な葛根湯に川芎という鎮痛作用や血行をよくする作用をもつ生薬と、辛夷という鎮痛消炎の生薬を付け加えたものです。頭痛や頭重感の症状をとるための川芎と、鼻をよく通すための辛夷がプラスされているのですが、風邪の症状に連続して副鼻腔炎となった場合などによく出される方剤です。どちらかというと、冷えて血行が悪くなり、頭が痛く鼻が詰まるという症状を狙うことが多いと思います。一方荊芥連翹湯は、頭部に溜まった悪い熱を冷ますようなお薬です。中身をみると、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)四物湯(シモツトウ)という処方が基本ベースとなっていて、それらの効果を調整する構成になっています。黄連解毒湯は黄連という熱を冷ます生薬を主として、毒(いわゆる毒の他に、熱毒といって熱がこもってさらに悪くなったもの、というような意味を含む)を解毒するという、いかにも漢方らしい名前の薬です。四物湯は補血作用といって、いわゆる気血水の血を補う基本のお薬です。簡単にいうと血行をよくするためのものと言っていいでしょう。よって荊芥連翹湯は汚い黄色い鼻汁が出たり詰まったりして、熱感を伴うものに向いているでしょう。辛夷清肺湯も熱を冷ます傾向の処方です。炎症を繰り返して鼻の粘膜が腫れたり、鼻茸(鼻粘膜のポリープ)ができたり、鼻がにおうなどの症状があれば用いてみようと考える処方です。小児でこれら3剤を同時に使うことはまずないですが、年配の男性の方でこの3種類を組み合わせて初めて何十年来の症状がよくなったという例を私は経験しています。

中耳炎の保険病名が記載されている処方は葛根湯です。しかしこれはやはり急性のものには有効ですが、慢性的に中耳炎を繰り返す場合には、小柴胡湯(ショウサイコトウ)柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)といった、柴胡という清熱消炎の力を持つ生薬を主とした方剤がよいでしょう。ただ、これらもキーになるのは熱っぽいかそうではないか、膿が溜まるかそうではないか、水がたまる(滲出性中耳炎など)かそうではないか、という症状であり、これらをしっかり見定めて処方を決めなければならないと思います。そうなると選ぶ処方はもっともっとバリエーションに富むことになります。

花粉症などのアレルギー疾患に随伴して副鼻腔炎や中耳炎も繰り返す子どもさんにも、眠気を起こさない漢方薬による治療が、学校生活や学習の妨げにならないのでお勧めです。

文責 三重大学附属病院漢方外来担当医・小児科専門医・医学博士 高村光幸

《参考文献》
漢方方剤ハンドブック(菅沼伸、菅沼栄・東洋学術出版社)
漢方診療医典第6版(大塚敬節ら・南山堂)
漢方診療ハンドブック(桑木崇秀著・創元社)

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最終更新日:2012年1月25日

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