さて、漢方で花粉症シーズンをうまく乗り切れているでしょうか。小児科の外来をやっていると、妊娠中や授乳中のお母さんから花粉症やかぜの相談を受けることがあります。また、漢方外来では不妊治療に関する相談も受けることがあります。デリケートな時期の問題として、なかなかお薬を使いにくいところがあると思いますが、漢方はそういう場合にも役立つことがあります。
まずは不妊に関してですが、漢方医学的に考えると、たとえば、冷え、肥満、痩せ、血(気血水=き・けつ・すいのけつ)の問題があると、妊娠しにくいと考えられています。そこでまず、体のバランスを整え、「月経を調整して」、妊娠できる体にもっていくことに漢方を使うと考えます。すなわち、「経を整える(調経)」というのが基本になるのです。これについては、また回を改めて話題にしたいと考えますが、いくつかの漢方が妊娠の可能性をもたらすとされています。代表的なものとして、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は、安胎薬として古くから用いられているものでもあり、卵巣機能不全の方などに有効な報告がみられます。
妊娠が継続している間にも、いろいろな問題がでてきます。たとえば、つわり、すなわち妊娠悪阻ですが、小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ)に効果があるとされています。半夏と生姜が含まれており、この二つの組み合わせは悪心や嘔吐を改善させるとして、いくつかの方剤に組み込まれています。半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)にもこの組み合わせがあります。気持ち悪いのにまずい漢方を飲むの?という方もいるかもしれませんが、エキス剤をお湯に溶かし、それを冷たくして味やにおいを和らげ、少しずつ服用することで効果が期待できそうです。他に六君子湯(リックンシトウ)や平胃散(ヘイイサン)を用いることもあるようです。流産や性器出血が見られる場合には、芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)や、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)などの使用の可能性がありますが、これらは漢方よりも現代医学的な治療を優先すべきと考えます。
妊娠中の風邪についてですが、参蘇飲(ジンソイン)や麦門冬湯(バクモンドウトウ)を使うことがあります。参蘇飲はいわゆる感冒症状に、麦門冬湯は感冒が長引いて咳が出て困るときに使うようにします。花粉症にも通常使う漢方を用いることがありますが、体質や症状の重さなどを勘案してなるべく慎重に行います。
基本的に、長い歴史の中で妊娠中も漢方は用いられてきましたが、確実に安全と言い切れるほどのエビデンスは存在しないので、症状と時期をみて考えます。特に、妊娠初期の3~11週は漢方薬も原則使わないほうが無難と学会からは提言がなされているので、よく相談して決めることが必要です。また、特に大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)、桃仁(トウニン)などの下す薬や一部の生薬は避けるか、時期を慎重に選ぶ必要があります。
文責 三重大学附属病院漢方外来担当医・小児科専門医 髙村光幸
《参考文献》
医学生のための漢方医学基礎編(安井廣迪・東洋学術出版社)
専門医のための漢方医学テキスト(日本東洋医学会)
山本巌の臨床漢方(板東正造編著・メディカルユーコン)
いかに弁証論治するか(菅沼栄著・東洋学術出版社)
モノグラフ漢方方剤の薬効・薬理(丁宗鐵・鳥居塚和生、医歯薬出版株式会社)
漢方診療医典(大塚敬節ら著・南山堂)
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