気管支喘息の病態にあてはまる漢方医学の症候に、喘証(ぜんしょう)および哮証(こうしょう)というものがあります。喘証は呼吸が速くなること、哮証はゼーゼーと音のする状態を呼びます。喘証ついては、vol.4でも触れた、「黄帝内経(こうていだいけい)」と呼ばれる古代の医学書にも記載があります。なんとも興味深いことに、このはるか昔の古代書では、喘証は体外からくる病因(外感)だけでなく、体内の状態(内傷)によっても引き起こされるという解釈がなされています。これはまさに、ダニやホコリなどの体外のアレルギー物質により誘発される、アレルギー体質という体内の問題に関わる症状だという現代の解釈と、類似するのです。本当に古代人の観察眼の鋭さには驚かされます。漢方の考えは、このような古い書物の記載などが基になっていますが、現代医学でようやく解明されてきたことが、漢方の古典にはまるでその本質が既にわかっていたかのように書いてあったりするので、西洋医学をひととおり学んだ者としては、なんとも不思議な感覚に包まれることがしばしばあります。
体内の状態(内傷)については、アトピーのときと同様に、脂っこいものや甘いもの、生ものや冷たいものをむやみに食べたりしつづけると、やがて喘息の症状がおこるという考えが含まれます。つまり、不適切な食事をすると脾(胃腸などの消化機能)がダメージを受け、それに伴って次第に肺(気管や肺などの呼吸機能)がダメージを受けるという連鎖反応を考慮します。どうして消化機能がやられると呼吸機能がダメなのか、という疑問ですが、五行学説(ごぎょうがくせつ)という基本理論に基づいています。
とってもややこしいのですが、ここでいう脾や肺は、現代医学での脾臓や肺臓とは別のもので、単に消化機能、呼吸機能と置き換えて考えてください。脾と肺は、母と子の関係のように考えられていて、母がダメならいつか子もダメになる、みたいにとらえられます。いわゆる五臓六腑(肝、心、脾、肺、腎など)は、お互いがつながっていて、影響を及ぼしあっているので、どこかが悪ければ別のどこかにも悪いことがおこる、という考えです。心も体も内臓もみんなつながっているという考えです。みなさんが想像しやすいのは、ストレスがたまると胃が痛くなる、というやつでしょうか。これは五行学説でいくと、肝(感情や気分の情緒機能で、肝臓ではない)の負担が大きくなると、脾(消化機能であって、脾臓ではない)が痛めつけられる、ということで説明しています。ストレスと消化機能のつながりは、現代医学で証明されていますから、五行学説は全くの机上の空論というわけではないのかもしれません。
アトピーと喘息の両方を患うお子さんもたくさんいると思いますが、遺伝的なものだけでは説明がつきません。このコラムでは何度も書いていますが、現代の子どもたちが口にしている加工品やお菓子などは、根本的なアレルギー体質を作るひとつの重要な要因として、今まさに考えるべきものじゃないかと、はるか昔の本を読んで改めて思うのでした。
文責 三重大学附属病院漢方外来担当医 高村光幸
《参考文献》
標準中医内科学(東洋学術出版社)
いかに弁証論治するか(菅沼栄著、東洋学術出版社)
《写真提供》
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