1回目のコラムで名前だけ挙げた小建中湯(ショウケンチュウトウ)という処方ですが、アトピー以外でもよく子どもに使う処方のひとつです。中身をみてみると、桂皮(ケイヒ)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)、膠飴(コウイ)、芍薬(シャクヤク)という生薬の構成になっています。桂皮とは、シナモンのことです。大棗はナツメです。生姜はそのままショウガのことです。甘草はマメ科の植物の根で、一般に売られている食品(たとえば味噌、醤油など)の甘味料などに幅広く使われています(砂糖の50~200倍!の甘さがあるといわれています)。膠飴は餅米などのデンプン質が元になったアメです。芍薬はお花のシャクヤクの根ですが、これ以外は全て食べ物だということに気づかれましたか?しかも甘そうですよね。子どもによく出す薬というのも納得して頂けるかと思います。さて、お薬と思って飲んでいても、ほとんど食べ物みたいなものから成り立っている漢方は他にもたくさんあります。つまり、身近な食べ物で病気が治るということです。
しかし、そうであれば逆に食べ物で病気が悪くなることもありそうです。特にちまたでよく聞く「メタボリックシンドローム」や「糖尿病」なんかは、病気をコントロールする上で食生活が非常に重要だと、誰もが理解しています。アトピーにも、多かれ少なかれ食事は関係しているはずです。特に食物アレルギーを合併しているアトピー性皮膚炎は、食物除去をおこなったり、耐性化が起こったりすれば治癒も望めると考えられています。また、ベテランの医師たちに聞くと、昔はアトピーなどほとんどなく、欧米的な食生活が広まってからアトピーも増えたと答える方が多くみられます。
具体的にどのような食事をしたらアトピーが改善するかについては、まだまだ研究の余地がありそうですが、遙か昔、中国最古の医学書といわれる「黄帝内経(こうていだいけい)」には、すでに「脂っこい物や味の濃い物を食べ過ぎると癰痒瘡瘍などの皮膚疾患が現れる」と書いてあるとされています。難しい漢字ですが、要するに赤みやただれ、かゆみや膿、などの湿疹や発疹ができるということのようです。ちなみに、現代中医学薬膳では、皮膚が赤く熱をもってびらんや膿をもつ場合のお勧め食材は、セロリや白菜、ジュンサイ、ニガウリ、キュウリ、トマトなどだそうです。いらない熱を冷やしてくれそうですよね。
とにもかくにも、偏りのある食生活はやめた方がきっといいはずです。ついついマク○ナル○みたいな食事ばっかりしている人は、肌荒れが起きるかも。何事もほどほどがいいのです。
文責 三重大学附属病院漢方外来担当医 高村光幸
《参考文献》
医学生のための漢方医学基礎編(安井廣迪・東洋学術出版社)
日本食品大辞典(杉田浩一ら、医歯薬出版株式会社)
EBMアレルギー疾患の治療2010-2011(中外医学社)
実用中医薬膳学(辰巳洋・東洋学術出版社)
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