一般的なむし歯や歯肉炎だけでなく、子どもにみられる歯や口の病気はいくつかあります。今回はその中から主なものをいくつか紹介させていただきます。
むし歯(う蝕)
ミュータンス菌などの口腔内細菌が歯の表面にプラーク(歯垢、細菌の塊)を形成してこびりつき、その中で細菌が糖分を消化する際に酸を産生し、歯を溶かしてしまう病気です。ブラッシングでプラークを除去することが最も有効な予防法ですが、糖分や食事を摂るときはだらだら食いを控え、一定間隔をあけ、規則正しい食生活を送ることが大切です。
また、炭酸飲料やスポーツドリンク、ジュースなどを日常的に飲用していると、それらの飲み物の多くは酸性のため、歯が溶けやすくなったり、既に穴があいてしまったところが速く深く進んでしまうことも多いため、注意が必要です。
歯の脱落と破折
ぶつかったり転んだりして、歯が抜けたり、大きく欠けてしまうことがあります。歯が抜けた場合は、再植できることがありますので抜けた歯を持参し、できるだけ早く(できれば30分以内)歯科医院を受診しましょう。その際、歯は水洗したり水に漬けたりせず、牛乳か生理食塩水に漬けて持参されるのが望ましいでしょう。歯の周りの組織が保たれます。学校では専用の保存液を確保してある場合があります。再植が不可能な場合は、ブリッジなどの補てつ治療が必要になるでしょう。
歯が大きく欠けた場合も、欠けた歯を持参し、なるべく早く歯科医院を受診されると良いでしょう。白いつめもので治ることも多いですし、欠けた歯を再接着できることもあります。欠けた大きさによっては神経を取ってかぶせる必要があるかもしれません。
癒合歯
隣り合う歯がくっついて生えてくるもので、主に乳歯の前歯にみられます。歯がくっついたために隙間が広く見えることがあります。乳歯が癒合歯であっても、永久歯は正常に生えてくることも多いので、経過観察が望ましいでしょう。
先天性欠損
生まれつき一部の歯が作られず、生えてこないものです。近年増加傾向にあるといわれており、永久歯の前から2番目、5番目の歯が欠損することが多く、歯並びやかみ合わせに影響を与えることがあります。学校検診で見つかることもあり、見つかった場合はかかりつけの歯科医師にご相談なさると良いでしょう。
過剰歯
余分な歯が生えるものです。正常な歯とともに萌出する場合もありますが、埋伏(骨の中に埋もれている)している場合が多いので注意が必要です。永久歯の上の前歯の隙間がなかなか塞がらない場合などにレントゲンで偶然発見されることもあります。歯並びやかみ合わせに影響を与えることがあり、抜歯が望ましいことも多いです。
埋伏歯
本来生えるべき歯や前述の過剰歯が、骨の中に埋まったまま生えて来られない状態です。レントゲンで偶然見つかることもあります。生える方向が正常とは異なっていたり、歯の根の形がわん曲していることがあり、外科的対応が望ましいこともあります。
鵞口瘡(がこうそう)
カンジダ菌(カビの一種)が頬の粘膜で増殖し、頬の内側が白く見えるものです。乳幼児に多くみられ、母親の乳頭や乳頭保護器、哺乳瓶の乳首、おしゃぶり、ミトンなどが不潔であると感染原因となることがあります。特に痛みなどの症状は無く、自然治癒することも多いですが、広がっていく場合や、なかなか治らない場合は小児科、歯科を受診されると良いでしょう。普段から清潔を心がけることが大切です。
Riga-Fede病
乳歯の下の前歯の先端が尖っている場合に、舌に傷ができるものです。歯の尖っているところを丸めたりして治療します。
上皮真珠
歯堤(歯のできるもとになるもの)の残りが歯ぐきに出てきて、歯ぐきに半球状の白または黄白色の膨らみを形成するものです。自然消滅・自然治癒するため、経過観察でよいでしょう。
手足口病
主にコクサッキーウイルスA16、エンテロウイルス71によるウイルス性疾患です。1~3才に好発し、夏に多発します。高熱と全身倦怠、頭痛、食欲不振などの症状が現れ、1~2日で解熱すると、口の中に小水疱や潰瘍を、手のひら、足の裏などに水疱を形成します。口や手足の症状は7日程度で治癒します。口内炎がひどいと、痛みで食事が摂りにくくなるため栄養不足や脱水に注意が必要です。
ヘルパンギーナ
エンテロウイルスのうち、コクサッキーウイルスA群の感染によるウイルス性疾患です。乳幼児で夏季によくみられ、発熱と口の中の水疱を特徴とします。水疱が破れると潰瘍となり、食事時などに痛みを伴うようになりますが、7日程度で治癒します。手足口病とは異なり、手足には症状は現れず、口の中の水疱が軟口蓋、口蓋垂、扁桃といった奥のほう(咽頭部)に現れるのが特徴です。
ヘルペス性歯肉口内炎
単純ヘルペスウイルス(HSV-1)の感染によるウイルス性疾患です。乳幼児期に初感染し、ほとんどの場合は不顕性感染(症状が出ない感染)となり、ウイルスは三叉神経細胞の内部に潜伏します。その後、疲労やストレスなどで免疫が低下するとヘルペス性歯肉口内炎を発症します。しかし一部は乳幼児期の初感染時にもヘルペス性歯肉口内炎を発症する場合があります。症状は発熱、食欲不振、倦怠感などの風邪に似た症状に加え、口の中に多数の小水疱を形成します。7日ほどで治癒します。安静、水分と栄養の補給とともに、抗ウイルス薬の投与も効果的です。
水痘(水ぼうそう)
水痘・帯状疱疹ウイルスが初感染したときに発症するウイルス性疾患です。発熱とともに小発疹が体、頭、顔、口の中など全身に広がり、次第に水疱に移行し、痒みを伴います。水疱は最終的には痂皮(かさぶた)となり剥がれていきます。かさぶたの痕が少し残る場合もあります。
初感染後は単純ヘルペスウイルスと同様に神経に潜伏し、その後何らかの誘因によって再活性化すると、帯状疱疹を発症します。帯状疱疹では、口の中の水疱が片側性で、顔面や腹部などにも片方に帯状の水疱ができ、痛み(神経痛)も強く現れます。
歯肉炎
口腔内細菌が歯の表面にプラーク(歯垢、細菌の塊)を形成し、歯肉溝(歯と歯ぐきの間の溝)の中で炎症を起こしたものです。歯石を伴う場合もあります。こびりついたプラークや歯石を除去することで歯ぐきは回復しますが、その後再び付着しないように、自分でしっかりブラッシングできるよう、ブラッシング指導やブラッシング習慣の見直しが重要です。
(歯科毛利医院 毛利吉宏 先生)
(福井市歯科医師会)
※ 本文は歯科医療の観点より記載されております。