今回は、生まれて間もなくお子様に生えてくる乳歯について考えてもらいたいと思います。
普通、生後6ヶ月くらいになると、お子さんのお口の中に乳歯が顔を出し始めます。一般には下顎の真ん中の乳中切歯から生えてきますが、生える時期を含め、かなり個人差もありますので、気にし過ぎないようにしましょう。
ここで肝心なことは、生える時期よりもずっと以前から、お母さんのおなかの中に居る時から歯が作られ始めるということです。下顎乳中切歯は胎生7週頃から作られ始めています。ですから、お母さんの体調や栄養状態により、作られる歯に影響が出ることがあるということです。永久歯の下顎中切歯も胎生5ヶ月くらいから作られ始めるので、妊娠中は体調や栄養の管理に十分注意しましょう。
大体3歳くらいになると、上下顎10本ずつの20本の乳歯が生え揃います。そして6歳くらいから生え変わりが始まり、12歳くらいですべての生え変わりが終わるのが普通です。が、これも生え始めと同じでかなり個人差がありますので、あまり気にしないでおきましょう。
今度は乳歯の構造上の特長について考えて見ましょう。
乳歯は、外見上、永久歯に比べて小さいのはもちろん、その色調も透明感が少なく白みがかってなんとなくひ弱に見えます。表面は硬いエナメル質によって覆われ、象牙質、その中に一般には神経と呼ばれる歯髄を内包しています。このように基本的に永久歯と同じですが、外見上にも現れているように、エナメル質や象牙質の厚みが薄くなっています。そして石灰化度が低く、有機質成分を多く含み、軟らかく、虫歯菌が産生する酸などの化学的刺激や、物理的刺激に弱いのが特徴です。歯髄腔も大きく、すぐに虫歯が神経まで到達してしまいます。その上、乳歯は永久歯より痛みを感じにくいためか、子供は痛いと言わない事が多いようです。このように、乳歯は虫歯になりやすく、虫歯に気づきにくく、その進み方も早いという特徴を持っていますので、周りの大人の方が注意深く見守ってあげることが必要です。また、残念ながら、このような構造上の制約もあって、窩洞形成(虫歯に詰め物をするために歯を削ること)がしづらく、治療した後も、詰め物の周りからの虫歯や破折も起こりやすいことなどから、永久歯に比べ詰め物が取れやすいことも事実ですので、虫歯を作らないようにすることが重要です。
最近ではかなり減ってはきていますが、特に年配のおじいちゃんおばあちゃん方の中などには、「乳歯はどうせ永久歯と生え変わるのだから、治療せずに放っておいても大丈夫だろう」といわれる方が、まだいらっしゃいます。これは大変な誤解です。
乳歯は、成長期にあるお子さんの健康機能獲得のため、非常に重要な役割を果たしているのです。乳歯には、
- 食べ物を噛み砕いて消化吸収を助ける。
- 発音を助ける。
- 顔の形を整え顎の発育を助ける。
- 将来生えてくる永久歯の場所や上下のかみ合わせの関係を確保する。
などの役割がありますので、虫歯を放っておいたり、ましてやひどくなって本来の生え変わりの時期以前に乳歯が失われるようなことになると、栄養の吸収がうまくいかなかったり、偏食の原因になったりもします。また、顔の形や歯並びが悪くなる恐れも出てきます。
このようにとても大切な乳歯ですので、その特徴を良く知った上で、無事永久歯に生え変わるまで大切にしていただきたいと思います。
(福井市歯科医師会)
※ 本文は歯科医療の観点より記載されております。