よく妊娠するとカルシウムを赤ちゃんに奪われるので歯が悪くなるという話を聞きますが、これは医学的にはまったく根拠がありません。妊娠初期は、つわりがある人の場合は歯ブラシを口に含むだけで気持ちが悪くなり、お腹が押し上げられるため量が食べられず間食に走ってしまうことがままあります。それでついつい、歯のケアを怠りがちになってしまうことが、虫歯の大きな原因です。
又妊娠すると、女性の口内の環境は大きく変わります。ホルモンの変化で歯周病菌が増える、だ液の量が減って口の中が乾きやすくなる、免疫力が落ちるなど、むし歯や歯の病気が起こりやすくなるのです。妊婦さんの歯のトラブルは、赤ちゃんの歯にも影響します。
生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、虫歯の原因となるミュータンス菌はいません。その後、歯の生え始める時期(生後6ヶ月頃)から感染が徐々に始まります。原因としてお母さんや赤ちゃんと触れあう機会の多い家族から食事中のスプーンの共有や口移し等によって唾液を介してうつります。このことからもお母さんは出産前に虫歯の治療を完了しておくことが望ましいと言えます。
又、1996年アメリカで、歯周病は「早産の危険因子の1つ」という研究報告が発表されました。
妊娠37週未満で生まれた早産の人や、2500g以下の低出生体重児を出産した人たちを調べてみたら、歯周病の進行している人が大勢いたのです。そのリスクは、歯周病でない人の、なんと7.5倍でした。
それでは妊娠中のどの時期に治療をしたらいいのでしょうか。 一応、妊娠のどの時期であっても通常の歯科治療は可能であるとされています。しかし、胎児や妊婦への影響から考えて、比較的安定している妊娠中期(5~7ヵ月)が望ましいとされています。
しかし妊娠初期や後期であっても、安定している状態であれば通常の治療が可能な場合もあります。逆に中期であっても不安定な状態であれば、応急処置にとどめた方が安心です。自分の状態に不安があるならば、産婦人科の先生に歯科治療を行っても差し支えないか確認することが望ましいといえます。
又つわりの時の歯のセルフケアはどのようにするかと言いますと、虫歯が起こる仕組みとして、食べ物を口に含むと、唾液の分泌の影響で、食後5分で口腔内の状態は中性から酸性に傾きます。酸がある一定のラインを超えると脱灰(だっかい)といって歯が溶けやすい状態になります。口の中が中性に戻るまでは30~40分を要するのですが、つわりの時はどうしても間食、いわゆるちょこちょこ食いが多くなり、口の中が中性に戻る前にまた酸の数値が上がってしまうということを繰り返します。これによって、口の中は常に虫歯菌や歯周病菌が繁殖しやすい状況になります。
つわり時の虫歯対策としては、食後すぐにキシリトールを食べること。キシリトールは酸を抑制し、脱灰を防ぐ働きがあります。しかし、食べ過ぎるとお腹がゆるくなることもありますので、適度な量の摂取を心がけてください。その後、ていねいに歯をブラッシングするのを忘れずに。
つわりで歯を磨くのがつらい時は、歯磨き粉は匂いや刺激の少ないものに変える、歯ブラシも子ども用など小さなヘッドにする、前屈みになって掻き出すように磨くなど、少しでも楽な気持ちでブラッシングできるようにしましょう。
(福井市歯科医師会)
※ 本文は歯科医療の観点より記載されております。